――覚えているのは……母さんの泣いている姿。
初めて見た、母さんの泣き顔。初めて聞いた、母さんの嗚咽。
俺はどうしたらいいのかわからなくて、オロオロしていた。だって、いつも優しくて、微笑んでくれて、たまに怒るときもあったけど、涙なんて絶対見せなかった母さんが、なりふり構わず父さんの胸板にしがみついてるんだ。
どうしたらいいかなんて、いつも慰められる立場だった俺にわかるわけがない。
それは、俺の隣に立ってた姉さんだって一緒だったと思う。俺にとって心強い存在だった姉さんだけど、やっぱり母さんには敵わない。その母さんがこんなになってしまったんだ、やっぱり姉さんもどうしたらいいのかわからなかったはず。
だから俺たちは、心配そうな顔つきで、父さんを見つめるしかなかった。それしかできなかったんだ。唯一、母さんを慰めてあげられる筈の父さんを。
「ごめんね……」
でも、母さんの涙に胸元を濡らしながら、父さんは、母さんの背中を優しくさすってあげることしかしなかった。
母さんを笑顔にして欲しい。俺たちがいくら目で訴えかけても、父さんは背中をさするだけ。
「ごめんね……でも、こうするしかないんだよ……」
父さんの声も悲しそうだった。
父さんも結局同じだった。母さんを慰めてあげないんじゃない。慰めることができないんだ。
理由なんて、わからない。でも、父さんに母さんを笑顔に戻す術は無い。
父さんが無理なら……誰も母さんを泣き止ませることができないじゃないか……!
そのことに気付いてしまったら、後は早かった。
「んっ、うっ……」
俺の声だったのか姉さんの声だったのか……どっちが先だったかなんてわからない。
もう、泣くしかなかった。俺も、姉さんも。
お互いの声が、相乗効果みたいになって、俺と姉さんは声を上げて泣いた。
その場で。声の限りに。泣いた。
「ぅわああぁああああぁぁぁっ」
「ぅうう、ぅああああっ」
人前で泣くのは恥ずかしいから嫌だった俺だけど、そんなこと気にすらならなかった。多分、姉さんも。
本気で泣いた。声がかすれるまで。
泣いて泣いて泣いて……どうなったのか、最後まで覚えていない。泣き疲れて、眠ってしまったんだろうか。
気が付いたのは、翌朝の寝室、布団の上だった。