――鴇宮市。双海彰吾と、姉の渚が此度移住してきた都市の名前。
人口は、結構多い。面積は、それなりに広い。そんなところだと、彰吾は記憶していた。
まあ、大雑把といえばその通りだが、この街に入ってまだ24時間ほどしか経っていない身に、それ以上求められてもというところだ。
しかし、あえて加えるならば、住みやすそうな良い街だ、というところだろうか。少なくとも、彼のこの街に対する第一印象はそんなところだった。
「彰吾ー、入るよー」
夜、日付も変わろうかという時刻。渚が彰吾の部屋――と昨日、第256回双海家家族会議で決められた部屋――を訪れたのは、一日の心の疲れを癒すべく彼がテレビを見ていたそんなときだった。
「あのさ彰吾――」
「その前に」
「……?」
ずかずかと入ってきては一方的に話を展開しようとする姉を止める。まあ、ずかずかと入ってくるのは構わないのだが――
「ここは、俺の部屋」
「……だから?」
「ノックぐらいして欲しいんだが」
「やよ、めんどくさい」
即答だった。
「あのな――」
「私たちの関係に……ノックなんて要らないわ!」
「まあ、人前じゃないからそういう誤解を招きそうな冗談も構わんけどさ、ノックはしろよ」
「え〜〜〜」
頬っぺたを膨らませる渚。まあ、可愛くないとは言わないが、子供でもあるまいし。
「もしドア開けたとき、日頃のストレスを発散させるべく自慰行為に励む俺がいたらどうすんの?」
「…………」
「…………」
「……手伝ったげよっか?」
「やかましいわいっ!」
全力で叫んでおいた。
「まあ、冗談はともかく――あのさ、彰吾」
「あぁ、そういや何しに来たの、姉さん」
「うん、実はさ――」
と一旦間をおいた渚。何か言い難そうなことを口にするかのようだった。
「明日、あんた、転校初日じゃない?」
「そうだけど」
「私も、転校初日なわけよ」
「……まあそうだろうな」
「でね――」
ここで更に一拍。そして――
「あんたの下着を貸して欲しいのよ」