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「――よし、入って来い!」
先に自らが担任している教室に入った斉藤からの声。転校していった生徒と、転校してくる生徒。2つの転校生の話題で、教室内は先程からざわついている。
「……ふぅ」
そのざわつきの半分は、自分が要因であることを感じ、一つ深呼吸をする。
幾度も転校して、幾度もこの扉を開ける瞬間を経験してきた彰吾だが、やはり、緊張しないというわけにはいかなかった。期待とか興味とか、そういった数十の視線が自分に集まるこの緊張感が、消え去っていくことはないらしい。もちろん、昔に比べると、落ち着いてこのドアを開くことが出来るようにはなってきたのだが。
「……よし」
――ガラガラガラッ
そんな音を立てながら、彰吾はゆっくりとドアを開いていった。
そして、彰吾がその1歩を教室内に踏み入れた時、教室の奥のほうから、
「えっ……!?」
「なっ……!?」
という2つの声が聞こえた。教室は依然ざわついたままだが、その中にあって、しかし、はっきりとその声は彰吾の耳に届いていた。
そちらの方を見やると、最後列とその前の列の席に、驚いたような顔をする男女が2人、目に入った。何故その2人が気に留まったのかといえば、それはやはりその表情からだろう。
――どんな奴なんだろう、という“興味”の表情でもなく……
――いい奴だといいな、という“期待”の表情でもなく……
――なんだ男かよ、という“落胆”の表情でもない。
この場において、“驚愕”の表情を浮かべているのは、その2人だけだった。いや、この場だけでない。転校生として初めて姿を現したときに、こちらを見て、驚きの面を向けられたのは、彼ら2人が恐らく初めてだろう。
一瞬、知り合いかとも考えたが、どうにも見覚えはない。
「? どうした? 入って来い」
と、斉藤教諭の声で我に返る。ドアを開いてから、1歩だけ動いて止まっていることに、今更気付いた彰吾。
若干赤面しながらも、室内へと歩みを進める。ちらっと黒板に目をやるが、自分の氏名が書かれている様子は無い。自分で書くべきなのか、と考えようとしたところで、斉藤教諭が口を開いた。
「ぁー、今日からこのクラスのメンバーとなる、双海彰吾君だ。まあ、あまり心配はしてないけど、仲良くするように」
中年教師のやる気のなさ気な紹介。首を下げる程度の会釈。そして、パチパチと起こる拍手。その間も、やはり先の2人は驚きを隠そうともせず、こちらを見つめていた――と、思いきや、
「先生!」
その2人のうち、後ろの席に座っていた男子生徒のほうが、声と同時に勢い良く手を挙げた。そして、女子生徒の方は、彼のアクションにハッとしたような表情を見せた後、彼を振り返った。
「……なんだ?」
「質問があります」
「……」
微妙な表情で男子生徒に相対する斉藤。無視したいが、教師という立場上、無視できない、という心情が、初見の彰吾の目にもはっきりと伝わっていた。
「そちらの転校生、双海さん、と言いましたか……」
「……」
「どうにも、男子に見えて仕方がないのですが?」
『……は?』
と、思わずといった感じで、彰吾と斉藤の口から疑問符が漏れていた。