「どう思うよ、梢」
「ど、どうって……」
 朝の騒動(?)から1時間ほど後――要するに斉藤の授業が終わってすぐの休み時間。授業終了のチャイムと同時に、梢は総一に引っ張られ、廊下まで連れてこられていた。
「あの男装転校生のことだ」
「だから、違うってば……」
「まだわからんだろうが」
「……」
 総一のその諦めの悪さに、溜め息を吐かざるを得ない。諦めの悪さというか、わらにも縋ろうとする執念というか……
 早春のさわやかな朝の教室に、微妙な空気をもたらした総一の“質問”。「な、なんでもないです〜」と慌てて総一の口を塞ぎながら無理やり座らせた梢。そして、ある意味総一の思惑通り、総一の隣の席につかされた転校生。しかし、総一は間近で彼――双海彰吾の姿を見て梢に言った言葉というのが、
「そうか……! 男装か!」
 先ほどの授業中、筆談でひたすら彼の「男装の女子」説を否定したのだが、総一は最後までその可能性を捨ててはくれなかった。まあ、事実として、あの転校生が男装した女生徒でないという証拠は存在しないのだから、仕方が無いのだが……
「――とはいえ、あの転校生が、男装の女子という可能性が高くないのは確かだ」
「え?」
「そりゃそうだ。あの格好を見て、男装の女子と、生粋の男子と、どちらが可能性が高いかくらい、俺にもわかる」
「…………へぇ」
 ドアの隙間から彰吾の姿を窺いながら言う総一に、思わず感心しそうになる。そういう常識的な思考回路を見せてもらえると、正直ホッとする。
「しかし、男装説にも根拠はある。斉藤と教頭の会話だ」
「ぁー、そういえばそんなのもあったね……」
「その中で教頭は確かに言っていた。転校生は女子だと」
「…………」
「故に、あの転校生を男と決め付けるのは早い。何か事情があって、学園側の協力の下、女子であることを隠しているのかもしれない」
「……ないと思うけどなぁ」
 呟く梢だが、それが相手にされるわけもなく……
「というわけで、梢。まだ計画は続行だ。親しくなっていく過程で、奴が女子であるという確証を掴むんだ」
 拳を前に真剣な眼差しでそう言う総一をやはり無下にできるわけも無いのが、梢である。
「……まあ、いいけど」
 転校生と仲良くなるのは悪いことではない。それが異性というのは、少し微妙なところであるが……総一のためというなら、木崎梢はやる。それが自分だと決めている。神山総一の手足となる。それが彼との関係であるべきだと、信じている。
「頼んだぞ」
 そう言ってこちらの肩に手を置く総一に、弱々しくだが頷き返す。
「……はぁ」
 決意はある。だがやはり、溜め息が漏れるのは、彼女の中の何かが納得できていないからだということに、梢自身も気付いているのだった。